繰上げ受給の損益分岐点と、繰上げを選ぶべき人の特徴
年金プロフェッサー・牧江社会保険労務士が「繰上げの合理性」を整理します。
「繰上げ」は「損」か「得」かを徹底的に究明
1.繰上げ受給とは
繰上げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を原則として同時に前倒しする制度です。厚生年金加入者が60〜64歳で繰上げを選ぶと、基礎年金だけでなく厚生年金も減額され、その減額は生涯続きます。
繰上げ受給は、65歳より早く(60〜64歳)年金を受け取る制度です。年金は1か月繰り上げるごとに0.4%減額されます。
昭和37年4月1日以前に生まれた方は、1か月ごとに0.5%減額されます。
2.損益分岐点とは何か
損益分岐点とは、繰上げ受給と65歳開始の累計受給額が同じになる年齢のことです。
繰上げは年金を早く受け取り始めるため、最初は繰上げのほうが累計額は多くなります。しかし、減額が生涯続くため、ある時点で65歳開始の累計額に追い抜かれます。
3.繰上げの損益分岐点(おおまかな目安)
老齢基礎年金・老齢厚生年金の構成割合により多少前後します。ご自身の損益分岐点を正しくお知りになりたい方は、年金事務所にてご相談ください。
4.損益分岐点の意味
損益分岐点を理解すると、繰上げの合理性が明確になります。
繰上げが有利
繰上げが不利
5.繰上げの重大なデメリット
繰上げ受給には、金額の減額以上に重要なデメリットがあります。それが「障害基礎年金の受給資格を失う」という点です。
障害基礎年金は、初診日に国民年金の被保険者であることが受給要件です。しかし、老齢基礎年金を繰り上げ受給すると、その時点で国民年金の被保険者資格がなくなる(強制脱退)ため、もしその後に病気やケガで障害状態になっても、初診日に「被保険者ではない」ため、障害基礎年金を請求できなくなるのです。
これは非常に大きなリスクです。
障害年金は老齢年金より支給額が高いケースが多いです。また60代は脳卒中・心疾患・がんなどの発症により障害状態となる方が増える年代です。繰上げを選ぶと、これらのリスクに備えられなくなることがあるのです。
6.繰上げを選ぶべき人の特徴
年金プロフェッサーとして、長年の実務経験から整理すると、繰上げが合理的になる人には共通点があります。
年金を早く受け取る必要がある
貯蓄が少ない場合は繰上げが現実的
老後の支援が期待できない場合は繰上げが合理的
早期受給が生活防衛になる
7.繰上げを選ぶべきではない人の特徴
逆に、繰上げが不利になる人も明確です。
80歳以降の生活費を考えると繰上げは不利
在職老齢年金の調整が発生する可能性がある
繰上げのメリットが小さい
繰上げ受給を選ぶと、60〜64歳の間は加給年金は支給されません。しかし、65歳に到達した時点で加給年金の支給要件(厚生年金加入20年以上・生計維持する配偶者等)が整っていれば、加給年金は支給されます。繰上げによって加給年金の権利が消滅するわけではありません。
8.専門家としての結論
繰上げ受給は、
- 短命の可能性がある人
- 60代前半の収入が途切れる人
- 貯蓄が少ない人
- 長生きする可能性が高い人
- 70歳以降も働く人
- 貯蓄が十分にある人
損益分岐点は、
この年齢を超える見込みがあるかどうかが、繰上げの合理性を判断する基準になります。
繰上げ支給をお考えの人は、事前に「年金事務所」にてシミュレーションをしてください。年金制度は法改正なども頻繁にありますので、直近の情報を常に確認してください。
9.結び:第2回の位置づけ
本稿では、繰上げ受給の損益分岐点と、繰上げを選ぶべき人・選ぶべきでない人の特徴を整理しました。

社会保険労務士法人 牧江&パートナーズ
会長 牧江 重徳(まきえ しげのり)
【資格】
特定社会保険労務士
行政書士
社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー
関西大学卒業後、約10年間の会社勤務を経て、昭和52年8月、社会保険労務士として独立しました。
同年10月には行政書士事務所を併設。平成31年には事務所を法人化しました。
「常にお客様と共にあり」をモットーとして、多くのお客様からご愛顧を賜り、創業50周年を迎えます。
現在、職員60人を擁する西日本有数の社会保険労務士法人に成長しました。




