不利益変更禁止の原則とは?民事訴訟・労働契約法・刑事訴訟の違いをわかりやすく解説

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不利益変更禁止の原則とは?民事訴訟・労働契約法・刑事訴訟の違いをわかりやすく解説【2025年最新】

「会社から突然給与を引き下げると言われた」「裁判で控訴したら、かえって不利な判決になるのではないか」――こうした不安を抱えたとき、あなたを守る法原則が「不利益変更禁止の原則」です。

この原則は、民事訴訟法、労働契約法、刑事訴訟法、行政法など、複数の法分野で認められており、当事者が自ら求めた範囲を超えて不利益を受けないことを保障しています。

本記事では、法分野ごとの不利益変更禁止の原則の違い、条文、趣旨、例外、重要判例を網羅的に解説します。

特に、労働契約法における給与・手当の引き下げの違法性、従業員が同意しない場合の対応、労働基準監督署への相談方法まで、2025年最新情報とともにわかりやすく説明します。

この記事でわかること
  • 不利益変更禁止の原則の基本概念と法分野ごとの違い
  • 民事訴訟法における条文・趣旨・例外(附帯控訴)
  • 労働契約法における給与・手当の引き下げの違法性
  • 従業員が同意しない場合の使用者・労働者の対応
  • 刑事訴訟法・行政法における不利益変更禁止の原則
  • 重要判例と合理性の判断基準

Table of Contents

    「不利益変更禁止の原則」は、当事者が自ら求めた範囲や手続きの中でもとの状態より不利になるような決定をすることを禁じる、という法的な大原則です。

    この原則は、国民の権利保護や公正な手続きの保障を目的としています。

    民事訴訟法、労働契約法、刑事訴訟法など、複数の法分野で採用されています。

    法分野ごとに違いはありますが、当事者に不利益にならないように守られるための原則です。

    不利益変更禁止の法則とは?
    • 不利益変更禁止の原則の基本概念
    • 法分野ごとの不利益変更禁止の原則の違い

    不利益変更禁止の原則の基本概念

    不利益変更禁止の原則の最も重要な役割は、「当事者が安心して訴えたり、契約を守ったりできる」ようにすることです。

    2025年現在は、民事訴訟法、労働契約法、刑事訴訟法、行政法の4つの法分野で規定されています。

    不利益変更禁止の原則が適用される法分野
    • 民事訴訟:控訴した当事者
      負けた当事者が裁判(控訴)を求めた結果、もとの判決よりもさらに重い敗訴をしないことを保障
    • 労働契約:労働者
      労働者の同意がない限り、会社が一方的に給与や休日などの労働条件を悪化させることを禁止
    • 刑事訴訟:被告人
      有罪判決を受けた被告人が控訴した結果、もとの判決よりも重い刑を言い渡されないことを保障
    • 行政法:行政サービスの受益者
      正当な理由がない限り、国や自治体がすでに決定した有利な行政処分(生活保護の決定など)を、一方的に不利な内容に変更できない

    法分野ごとの不利益変更禁止の原則の違い(一覧表)

    不利益変更禁止の原則は、法分野によって適用場面、根拠条文、保護対象が異なります。

    以下の比較表で、法分野ごとの違いを整理しました。

    法分野 適用場面 根拠条文 保護対象 主な例外
    民事訴訟法 控訴審 第296条・第304条 控訴人 附帯控訴、中間判決、相殺の抗弁
    労働契約法 労働条件の変更 第9条 労働者 個別同意、就業規則の変更(第10条の合理性要件)、労働協約
    刑事訴訟法 控訴審・上告審 第402条・第414条 被告人 検察官の控訴がある場合
    行政法 行政処分の変更 生活保護法第56条等 受益者 正当な理由がある場合

    各法分野で保護すべき当事者と保護の趣旨が異なるため、条文の内容や例外規定も異なります。

    民事訴訟では処分権主義(当事者が訴訟の範囲を決定する原則)、労働契約では労働者保護、刑事訴訟では被告人の権利保護、行政法では受益権の保護という、それぞれ異なる法理論に基づいています。

    民事訴訟法における不利益変更禁止の原則|条文・趣旨・例外

    民事訴訟法における不利益変更禁止の原則とは、裁判で負けた側が「控訴」をした結果、もとの判決よりもさらに不利な判決を受けることはないというルールです。

    これは、国民が安心して裁判を受ける権利を行使できるようにするための、非常に重要な手続き上の保証です。

    控訴したことで逆に不利益を受けるのであれば、当事者は控訴権の行使をためらうことにもなろかねません。
    それでは三審制の趣旨が損なわれる、という考え方に基づいてこの原則が保障されます。

    控訴権の保障は憲法第32条(裁判を受ける権利)に基づく重要な権利であり、不利益変更禁止の原則はこの権利を実効的に保障するための手続ルールです。

    民事訴訟法における不利益変更禁止の原則
    • 民事訴訟法の条文(第296条・第304条)
    • 制度の目的
    • 制度の例外
    • 控訴審と上告審での扱い

    民事訴訟法の条文(第296条・第304条)

    民事訴訟法における不利益変更禁止の原則は、第296条と第304条に規定されています。

    民事訴訟法の条文

    • 第296条第1項:「控訴審における口頭弁論は、控訴の趣旨及び理由並びにこれに対する答弁の範囲内で更新される。」
    • 第304条:「裁判所は、控訴の範囲内に限り、原判決を取り消し、又は変更することができる。」

    第296条は、控訴審の口頭弁論は控訴人が控訴した範囲でのみ審理が更新されることを定めています。

    第304条は、原判決の取消しや変更も控訴の範囲に限られることを明確にしています。
    これにより、控訴人が控訴した範囲を超えて不利益な判決を受けることはありません。

    制度の目的

    民事訴訟法で不利益変更禁止の原則が適応される目的は2つです。

    • 権利の保障
      もし控訴したせいで判決がさらに悪化する可能性があるなら、当事者は裁判所の間違いがあっても控訴をためらってしまいます。
    • 三審制の維持
      控訴のためらいを防ぎ、三審制(同じ事件を三段階の裁判所で審理する制度)が機能することを実効的に保証するために、この原則が不可欠とされています。

    この原則は、当事者が訴訟の範囲を定めるという民事訴訟の基本原則である「処分権主義」(民事訴訟法第246条)に基づいています。

    つまり、当事者が求めていない範囲で、裁判所が勝手に不利な判断を下してはいけない、ということです。

    制度の例外

    不利益変更禁止の原則には例外があります。

    主な例外は「附帯控訴」「中間判決」「相殺の抗弁」の3つです。

    不利益変更禁止の原則の例外
    • 附帯控訴(第293条):被控訴人が控訴人の控訴に付帯して行う控訴。附帯控訴が提起されれば、その範囲で控訴人に不利益な判決が可能
    • 中間判決:手続上の判断を先行して行う判決。既に確定した事項は不利益変更禁止の例外
    • 相殺の抗弁:被告が相殺を主張している場合、その範囲では原告に不利益な判断も可能

    附帯控訴は、被控訴人が控訴人の控訴に付帯して行う控訴。
    附帯控訴が提起されれば、その範囲で控訴人に不利益な判決が可能になります。

    これは、被控訴人が附帯控訴により自らの権利を主張しているため、控訴人にとっても予測可能な範囲での不利益変更として認められています。

    控訴審と上告審での扱い

    不利益変更禁止の原則は控訴審(第二審)に適用されます。
    上告審(第三審)は法令違反の有無のみを審査するため(第312条)、原則として不利益変更禁止の問題は生じません。

    • 控訴審(第二審)
      事実と法律の両方を審理するため、原則として不利益変更禁止の原則が全面的に適用
    • 上告審(第三審)
      法令違反の有無(法律的な誤り)のみを審査する「法律審」。 
      事実認定を覆すことはないため、不利益変更の問題は起きにくい。

    しかし上告審であっても、上告人が求めていない範囲で不利益な判決は下されないという原則は同様に働きます。

    労働契約法における不利益変更禁止の原則

    給与や手当の引き下げは、原則として労働者の同意なしにはできません。
    会社が一方的に労働条件を不利益に変更することは、労働契約法によって原則として禁止されています。

    しかし、「合理的な理由」がある場合は例外です。
    特別な場合のみ、就業規則を変更することで変更が認められる可能性があります。

    労働契約法における不利益変更禁止の原則
    • 労働契約法の条文(第8条・第9条・第10条)
    • 給与・基本給・手当の引き下げは違法か
    • 不利益変更が認められる3つの方法
    • 合理性の判断基準(労働契約法第10条)
    • 同意しない場合の権利保護

    労働契約法の条文(第8条・第9条・第10条)

    労働契約法における不利益変更禁止の原則は、第8条、第9条、第10条に規定されています。

    労働契約法の条文

    • 第8条(合意の原則)
      「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」
    • 第9条(不利益変更禁止の原則)
      「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」
    • 第10条(合理性がある場合の例外)
      「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」


    第8条は合意の原則を確認し、第9条は使用者が一方的に不利益変更することを禁止しています。

    第10条は例外的に合理的な変更であれば就業規則の変更により可能であることを定めています。
    第10条の合理性は、7つの要素を総合的に考慮して判断されます。

    給与・基本給・手当の引き下げは違法か

    給与・基本給・手当の引き下げは、労働者の同意がない場合は原則として違法です(労働契約法第9条)。
    ただし、就業規則の変更が労働契約法第10条の合理性の要件を満たす場合は、例外的に有効となります。

    給与・基本給・手当は労働者にとって最も重要な労働条件です。労働者の生活に直接影響します。

    そのため労働契約法第9条により、使用者が一方的に引き下げることは禁止されています。

    不利益変更が認められる3つの方法

    労働条件の不利益変更が適法に認められるのは、以下の3つの方法です。

    不利益変更が認められる3つの方法

    • ① 個別同意による変更 (労働契約法第8条)
       最も確実な方法。変更の理由と内容を丁寧に説明し、従業員一人ひとりから自由な意思に基づく同意(サイン)を得る。
    • ② 就業規則の変更(労働契約法第10条)
      従業員の同意なしに変更できる例外的な方法。ただし、「合理性」が裁判所で認められる場合に限る。
    • ③ 労働協約の締結(労働組合法第16条)
      企業内に労働組合がある場合、労働組合との交渉・合意により変更する方法。組合員に対して効力を持ちます。

    合理性の判断基準(労働契約法第10条)

    労働契約法第10条に基づく就業規則の変更の合理性は、7つの要素を総合的に考慮して判断されます。

    判断要素 内容 (補足・具体例)
    ①不利益の程度 労働者が被る不利益の程度 賃金・退職金の減額幅など
    ②変更の必要性 使用者側の変更の必要性の内容・程度 経営状況の悪化、競争力の維持など
    ③内容の相当性 変更後の就業規則の内容自体の相当性 (変更後のルールが合理的か)
    ④代償措置 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況 (代わりのメリットがあるか)
    ⑤労働組合との交渉 労働組合等との交渉の状況 (十分に話し合いが行われたか)
    ⑥他の従業員の対応 他の労働組合または他の従業員の対応 (他の従業員が合意しているか)
    ⑦社会一般の状況 同種事項に関するわが国社会における一般的状況 (社会通念上許容される範囲か)

    特に、賃金・退職金など重要な権利の不利益変更については、「高度の必要性に基づいた合理性」が必要とされ、合理性の判断は厳しくなります。

    同意しない場合の権利保護

    労働条件の不利益変更に従業員が同意しない場合、会社がその変更を強行することはできません(第9条違反)。

    当事者 実務的な対応 権利保護のための窓口
    従業員

    同意していない変更(例:一方的な賃金カット)は無効。
    変更前の賃金を請求する権利があります。

    労働基準監督署(賃金不払いなど労働基準法違反の場合)
    総合労働相談コーナー(労働契約法など民事上の相談)
    弁護士(労働審判・訴訟による紛争解決)
    会社
    (使用者)

    同意のない変更を強行すると労働契約法第9条違反。
    変更が無効になるだけでなく労使紛争のリスクに。
    変更の必要性を説明し、代償措置を提示して合意形成に努める。

    専門家(社会保険労務士、弁護士)に相談し、
    第10条の合理性が満たせるか慎重に判断。

    従業員が労働審判や訴訟に持ち込めば、会社側は第10条の合理性を立証する責任を負うことになります。

    刑事訴訟法・行政法における不利益変更禁止の原則

    「不利益変更禁止の原則」は、国の重要な手続きである刑事裁判や行政サービスにおいても、国民の権利を守るためのルールとして働いています。

    刑事訴訟法では不利益変更禁止の原則により、被告人が控訴した事件について原判決の刑より重い刑を言い渡すことができません(第402条・第414条)。

    行政法では生活保護法第56条などで、受益者の不利益変更を制限しています。

    刑事訴訟法・行政法における不利益変更禁止の原則
    • 刑事訴訟法の条文
    • 行政法の条文
    • 公務員の労働条件と不利益変更

    刑事訴訟法の条文(第402条・第414条)

    刑事訴訟法における不利益変更禁止の原則は、被告人の権利を守るためのルールです。

     

    項目 原則の内容 根拠条文・目的
    原則

    被告人(有罪とされた人)が控訴・上告をした場合、
    控訴審・上告審では、原判決の刑よりも重い刑を言い渡すことはできない。

    第402条・第414条
    目的 被告人が「控訴したせいで刑が重くなるかもしれない」と恐れて、
    正当な不服申し立てをためらうのを防ぐためです。
    被告人は安心して三審制(裁判を受ける権利)を利用可能。

    この原則は、少年法においても同様に適用されます。
    少年やその代理人が不服を申し立てた場合、もとの決定より不利な決定をされることはありません。

    この原則は、被告人側からの上訴があった場合にのみ適用されます。

    ただし例外もあります。それは検察官(国)が「刑が軽すぎる」として控訴している場合です。

    その場合は被告人からの上訴があったとしても、裁判所は刑を重くすることができます。
    これは検察官も上訴権を持つためです。

    行政法の条文(生活保護法第56条)

    行政法分野では、行政サービスを受けている人(受益者)の生活の安定と権利を保護するため、不利益な変更が制限されます。

    項目 原則の内容 根拠条文(例)
    原則

    一度決定された行政上の保護や給付について、正当な理由がない限り、
    実施機関はこれを不利益に変更することができない。

    生活保護法 第56条
    目的 国民が行政から受けた利益(保護費など)を、
    行政機関の都合や恣意的な判断で一方的に減らされたり、
    打ち切られたりするのを防ぐ。
     
    例外 「正当な理由」がある場合のみ変更が可能です。 (例:受給者の収入が増えた、虚偽の申告が判明したなど)

    生活保護法における不利益変更禁止の原則は、「一度、生活保護の支給が決まったら、役所は勝手な理由でその内容を不利に変更したり、減らしたりしてはいけない」というルールです。

    受給者(被保護者)の生活の安定を最優先で守るための行政法上の重要な保証になっています。

    しかし「正当な理由」がある場合に限り、役所は保護を減額・変更することが可能です。正当な理由とは、収入の増加や不正などを指します。

    受給者の側の変化や事情に基づいて保護の必要性が変わった場合にのみ、行政は保護の内容を変更できます。

    公務員の労働条件と不利益変更

    公務員の労働(勤務)条件は、原則として行政法の範囲によって規律されます。一般的な会社員に適用される「労働契約法」は、公務員には直接適用されません。

    このため、一般の会社員に適用される労働契約法の不利益変更禁止の原則は、公務員には直接適用されません。

    しかし、勤務条件の変更には法律・条例の改正が必要であり、恣意的な変更は制限されることで、一定の保護が図られています。

    不利益変更禁止の原則に関するよくある質問

    当サイトの管理者
    牧江重徳

    社会保険労務士法人 牧江&パートナーズ
    会長 牧江 重徳(まきえ しげのり)

    【資格】
    特定社会保険労務士
    行政書士
    社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー

    関西大学卒業後、約10年間の会社勤務を経て、昭和52年8月、社会保険労務士として独立しました。
    同年10月には行政書士事務所を併設。平成31年には事務所を法人化しました。

    「常にお客様と共にあり」をモットーとして、多くのお客様からご愛顧を賜り、創業50周年を迎えます。
    現在、職員60人を擁する西日本有数の社会保険労務士法人に成長しました。

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