年金はいつからもらうべきか
年金プロフェッサー・牧江 重徳 社会保険労務士が「受給開始年齢」の本質を探る
「年金は、何歳から受け取るのが一番得なのでしょうか」
年金相談の現場で、非常によく受ける質問の一つです。しかし、年金を受け取り始める年齢に、すべての人に共通する一つの正解があるわけではありません。
健康状態、働き方、貯蓄、家族構成などによって、合理的な選択は変わります。今回は、年金の受給開始年齢を考えるための基本的な仕組みを整理します。
1.年金は「いつからもらえるのか」という制度上の前提は
公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)の受給開始年齢は、原則65歳です。
ただし、次のように「前倒し(繰上げ)」と「後ろ倒し(繰下げ)」が認められています。
この「選べる」という仕組みが、年金の受給開始年齢を考えるうえでの出発点になります。
2.繰上げ受給の仕組みと影響
2-1.繰上げの基本ルール
- 繰り上げする期間は、1か月単位で決めることができます。
- 月々の年金額は繰り上げる期間の長さによって減額され、その減額は「生涯にわたって」続きます。
- 64歳から受給開始する場合、減額幅は小さくなりますが、65歳よりは必ず少なくなります。
2-2.繰上げのメリット
- 早く現金収入を得られる
- 60代前半に収入が途切れる人にとっては、生活の支えになる
- 貯蓄が少ない場合、生活防衛として機能する
2-3.繰上げのデメリット
- 減額は一生続く
- 長生きすればするほど、累計受給額は65歳開始より少なくなる
- 働きながら受給すると、在職老齢年金など他制度との調整が必要になる
3.繰下げ受給の仕組みと影響
3-1.繰下げの基本ルール
65歳以降に受給開始を遅らせると、1か月繰り下げるごとに年金額が0.7%増額されます。増額は「生涯にわたって」続きます。
3-2.繰下げのメリット
- 生涯の年金額が増える
- 長生きするほど、累計受給額は65歳開始より多くなる
- 70歳以降も就労を続ける人にとっては、合理的な選択肢になりうる
3-3.繰下げのデメリット
- 受給開始までの期間、年金収入がゼロになる
- 貯蓄や就労収入がない場合、生活が成り立たない
- 健康状態や寿命の見通しによっては、繰下げが不利になることもある
4.「どちらが得か」は寿命と働き方で変わる
年金の受給開始年齢を「損得」で考える場合、損益分岐点は“何歳まで生きるか”と“何歳まで働くか”で変わります。
ここで重要なのは、「一律に繰上げが得」「一律に繰下げが得」とは言えない、という点です。
ここで、すでに年金を受給している先輩方は、どのような判断をされたのでしょうか。
最新の統計を見てみると、実際の選択傾向がよく分かります。
実際の年金受給開始年齢の割合
(出典:年金制度基礎調査 老齢年金受給者実態調査 令和4年 他)
厚生労働省の年金受給者実態調査によると、老齢年金の受給開始年齢は以下のような構成になっています。
5.この結果をみて、年金プロフェッサーの感想は
5-1.「65歳開始」が圧倒的に多い理由
- 65歳が“標準”として制度設計されている
- 生活費のために早期受給が必要な人が一定数いる
- 繰下げは生活資金に余裕がないと選べない
- 75歳まで繰下げ可能になったが、まだ普及していない
結果として、8割以上が65歳で受給開始しています。
5-2.繰上げ(60〜64歳)が約15%ある理由
- 60代前半で収入が途切れる人が多い
- 貯蓄が少ない層は繰上げを選びやすい
- 「早くもらえる安心感」が強い
- 減額が生涯続くことを理解していないケースもある
5-3.繰下げ(66〜75歳)が少ない理由
- 受給開始までの生活資金が必要
- 健康状態や寿命への不安
- 「年金は早くもらわないと損」という誤解が根強い
- 制度が複雑で理解されていない
ただし、70歳まで働く人が増えるにつれ、繰下げは今後増える可能性が高い。
6.専門家としての整理:判断の軸
年金プロフェッサーとして、受給開始年齢を考える際の軸を整理すると、次の4点に集約されます。
持病の有無、平均余命の見通し
何歳まで働く予定か、働ける見込みがあるか
受給開始までの生活を自力で支えられるか
配偶者の年金、遺族年金の有無、介護・医療の見通し
7.結び:第1回の位置づけ
本稿では、「年金はいつからもらうべきか」という問いに対し、制度の枠組みと、繰上げ・繰下げの基本的な構造を整理しました。
繰上げ受給には、早く現金収入を得られるというメリットがある一方、減額された年金額が生涯続きます。
繰下げ受給には、将来の年金額を増やせるというメリットがある一方、受給開始までの生活資金が必要になります。
どの受給開始年齢が合理的なのかは、年金額だけでなく、健康状態、働き方、貯蓄、家族構成などを含めて考えることが大切です。

社会保険労務士法人 牧江&パートナーズ
会長 牧江 重徳(まきえ しげのり)
【資格】
特定社会保険労務士
行政書士
社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー
関西大学卒業後、約10年間の会社勤務を経て、昭和52年8月、社会保険労務士として独立しました。
同年10月には行政書士事務所を併設。平成31年には事務所を法人化しました。
「常にお客様と共にあり」をモットーとして、多くのお客様からご愛顧を賜り、創業50周年を迎えます。
現在、職員60人を擁する西日本有数の社会保険労務士法人に成長しました。




