繰下げ受給の損益分岐点と、繰下げを選ぶべき人の特徴
年金プロフェッサー・牧江社会保険労務士が「繰下げの合理性」を体系的に整理します。
1.繰下げ受給とは
繰下げ受給とは、老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始を65歳以降に遅らせる制度です。1か月繰り下げるごとに0.7%増額され、最大75歳まで繰り下げることができます。
2.損益分岐点とは何か
損益分岐点とは、繰下げ受給と65歳開始の累計受給額が同じになる年齢のことです。
繰下げは、最初は年金ゼロの期間があるため不利ですが、増額が生涯続くため、長生きすると累計額が逆転します。
3.繰下げの損益分岐点(おおまかな目安)
老齢基礎年金・老齢厚生年金の構成割合により多少前後します。
4.繰下げのメリット
- 生涯の年金額が大きく増える
- 長寿リスク(老後の資金不足)に強い
- 基礎年金と厚生年金を別々に繰り下げできる
- 加給年金を確保するため、「厚生年金は65歳開始・基礎年金だけ繰下げ」が可能
5.繰下げの重大な注意点
- 厚生年金を繰り下げると、繰下げ期間中は加給年金が支給されない
- 在職老齢年金の調整がある人は繰下げの効果が薄い
- 繰下げ期間中は年金ゼロのため生活資金が必要
- 健康状態によっては繰下げが不利になる
6.繰下げを選ぶべき人の特徴
7.繰下げを選ぶべきではない人の特徴
8.専門家としての結論
繰下げ受給は、
- 長寿の可能性が高い人
- 65歳以降も働く人
- 貯蓄が十分にある人
- 健康に不安がある人
- 65歳以降の生活資金が不足する人
- 加給年金を長期間受けられる人
9.結び:第3回の位置づけ
本稿では、繰下げ受給の損益分岐点と、繰下げを選ぶべき人・選ぶべきでない人の特徴を整理しました。
年金制度は複雑で、繰上げ・繰下げの判断は個人の状況によって大きく異なります。そのため、年金事務所では「正確な年金見込額」「損益分岐点」「加給年金の支給要件」「障害年金の受給資格」「在職老齢年金の調整」などを必ず確認してください。
年金事務所での相談は無料であり、最新の記録に基づく正確なシミュレーションが可能です。繰上げ・繰下げを検討する際は、必ず事前に年金事務所で相談することを強くお勧めします。
ここで、年金事務所での相談のポイントをまとめましたので、参考にしてください。
① 自分の「正確な年金見込額」を確認する
ねんきんネットの試算は概算です。年金事務所では、最新の記録を反映した正確な見込額が出ます。
- 老齢基礎年金
- 老齢厚生年金
- 加給年金の有無
- 在職老齢年金の調整見込
- 65歳開始/繰上げ/繰下げの比較額
これが「損益分岐点」を判断する基礎データになります。
② 繰上げ・繰下げの「個別シミュレーション」を依頼する
ブログで示す損益分岐点は“目安”ですが、年金事務所では、個人の記録に基づく正確な損益分岐点が出ます。
- 66歳開始・70歳開始・75歳開始の累計額比較
- 繰上げ(60〜64歳)の累計額比較
- どの年齢で逆転するか(損益分岐点)
- 基礎年金だけ繰下げ/厚生年金だけ繰下げの比較
これを出してもらうと、判断が一気に明確になります。
③ 加給年金の支給要件を「自分の場合」で確認する
- 配偶者と子の年齢
- 生計維持要件(年収850万円未満)
- 厚生年金加入20年以上の確認
ここは、年金事務所での確認が必須です。
④ 障害基礎年金の受給資格がどうなるか
繰上げを選ぶと「障害基礎年金の受給資格を失う」(従来から受給中の人は継続して受給できます)ため、相談者の健康状態によっては重大な判断材料になります。
社会保険労務士法人牧江&パートナーズでは「障害年金の受給相談」を行っていますが、相談者の中には「繰上げ受給をしたため障害年金を申請できない」といったケースがあります。残念ですが、どうしようもありません。
障害年金はほとんどの疾病を対象としていますので、現在病気に罹患している人は、現在は申請できなくても将来は申請できる可能性もあります。慎重な判断が必要です。
- 初診日の被保険者要件
- 繰上げ後の障害年金の扱い
- 既存の傷病の影響
第2回で強調された“最大のデメリット”です。
障害年金につきましては、今後「年金シリーズ」で取り上げますので、ご参照ください。
⑤ 在職老齢年金の調整がどう影響するか
60歳で働く人は、繰上げ・繰下げの判断に直結します。
- 現在の給与+年金の合計
- どの年齢で調整が発生するか
- 調整後の年金額
- 繰下げのメリットが消えるケースの確認
⑥ 年金記録の漏れ・未納・未加入期間の確認
年金事務所でしか確認できない部分です。
- 記録漏れ(特に厚生年金)
- 未納期間の扱い
- 任意加入の可否
- 60歳以降の加入方法(任意加入・付加年金)
⑦ 65歳以降の働き方と年金の関係
相談者のライフプランに直結します。
- 70歳まで働く場合の年金額
- 75歳まで働く場合の年金額
- 在職定時改定の影響
⑧ 最終的な「繰上げ・繰下げの判断」
年金事務所は中立ですが、相談者の状況に応じた“合理的な選択”を一緒に整理してくれます。このデータに基づいて、ご自分で判断してください。
- 生活資金
- 健康状態
- 家族構成
- 加給年金の有無
- 長寿リスク
- 貯蓄状況
繰上げ・繰下げ受給をお考えの人は、事前に「年金事務所」にてシミュレーションをしてください。年金制度は法改正なども頻繁にありますので、直近の情報を常に確認してください。年金事務所に訪問の際は、「聞きたいポイント」をメモして訪問しましょう。

社会保険労務士法人 牧江&パートナーズ
会長 牧江 重徳(まきえ しげのり)
【資格】
特定社会保険労務士
行政書士
社会福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー
関西大学卒業後、約10年間の会社勤務を経て、昭和52年8月、社会保険労務士として独立しました。
同年10月には行政書士事務所を併設。平成31年には事務所を法人化しました。
「常にお客様と共にあり」をモットーとして、多くのお客様からご愛顧を賜り、創業50周年を迎えます。
現在、職員60人を擁する西日本有数の社会保険労務士法人に成長しました。




